第70回ニッポンクラウドワーキンググループ会合 大阪開催 報告
『実現される未来を知り、クラウドケイパビリティをみがく!』をテーマに、ニッポンクラウドワーキンググループ第70回会合(大阪開催)を、リアルとオンラインのハイブリッドにて開催いたしました。
4年ぶりの大阪での開催となった今回の会合は、GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社さんに会場をご提供いただき、多くの方々にご参加いただき活気ある会合となりました。
テーマ:『実現される未来を知り、クラウドケイパビリティをみがく!』
日 時:2023年10月27日(金)15:00~18:00
会 場:GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社 大阪支社
および、オンライン(Zoom)
今回の会合は、「実現される未来を知り、クラウドケイパビリティをみがく!」をテーマに、講演では、サムライクラウドサポーター/NTTコミュニケーションズ株式会社エバンジェリストの林さんから、「AIとクラウドの進展とIOWN」と題して、今話題の新技術「IOWN(アイオン)」を中心にお話いただきました。
また、ゲストとして、和歌山大学 学長補佐/教授の秋山先生から、「世界と我が国の宇宙ビジネス」と題して、世界と日本の状況を比較しながら宇宙ビジネスについてお話いただきました。
参画各社の皆さんの今後のクラウドビジネスにとっても気づきとなる内容でした。
お二方とも、ありがとうございました。
【司会者のご紹介】
司会 理事 尾鷲 彰一
1.開催のご挨拶、会のご紹介
NCWG副会長 藤田 浩之
皆さん、本日はNCWG第70回会合にお集まりいただき、ありがとうございます。
副会長の藤田です。
まずは、会場をご提供いただいたGMOグローバルサイン・ホールディングスさんに御礼申し上げます。
4年ぶりに大阪での会合を開催できて嬉しく思います。
コロナ禍を経て、4年前との違いはオンラインでも参加いただけることです。
今後もNCWGの会合はハイブリットで開催します。
今回のテーマは「実現される未来を知り、クラウドケイパビリティをみがく!」です。
本日は、まず初めにGMOグローバルサイン・ホールディングスさんからの各種ご紹介をいただき、続いて一つ目の講演として、NCWGサムライクラウドサポーターの林さんより「IOWN」についてお話しいただき、二つ目は和歌山大学学長補佐・教授の秋山さんより「世界と我が国の宇宙ビジネス」と題してご講演いただきます。
お二方とも、どのようなお話をお聞かせいただけるのか、とても楽しみです。
会のご紹介
今回の会合はオープン開催で一般の方にもご参加いただいておりますので、少し会のご紹介をさせていただきます。
ニッポンクラウドワーキンググループ、略称としてNCWGは、12年前の2011年11月1日に設立されました。参加構成はメンバー85社、アカデミックなサムライクラウドサポーターが6名、そして協賛企業が21社です。
設立趣意のキーワードとしては、日本から発出するクラウドビジネスモデルの構築とクラウドサービスの技術的意義としての「サムライクラウド」と、サムライクラウドの理念を基軸としたニュートラルな立ち位置から、あまねくクラウドサービスの技術的、ビジネス的連携を実現し、すべてのクラウドサービスを統合的に利用可能とすることにより、あらゆる利用者にとって高い価値と利便性をもたらす「グラウンドクラウド構想」の実現を目指しています。
2023年のスローガンは、「Beyond the Clouds2023!『クラウドケイパビリティをみがき、クラウドビジネスの明日を創る!』」で、基本的な活動方針は「クラウドサービスの利便性向上によるクラウドビジネスモデルの価値拡大」と「日本のクラウドビジネスのマーケットの拡大」です。また、会の在り方としては、ベンダーニュートラルな立ち位置で、機会損失の防止に努め、参加構成が基本的にはクローズドでの利点を活かして、穏やかな拡大を目指すものです。
会のご紹介資料はこちら
2.新規メンバー・協賛のご紹介
新規メンバー アイシーティーリンク株式会社
3.部会報告
サムライクラウド部会
部会長 野元 恒志
SAML、Oauth、多要素認証などの認証技術、アプリケーションマッシュアップするための基盤技術、APIなどの先進的な議題についての議論と発表を行っています。
直近は、来期に向けたゼロトラストの公開ドキュメントの議論や、大規模情報漏洩事件に関しての考察、特権ID管理(Apache Guacamole(ワカモレ))等の話を活発に行なっています。次回は11月下旬に開催致しますので、どうぞご参加ください。
クラウドアプリケーション部会
部会長 尾鷲 彰一
テーマ:AIと遊ぼう!
活動概要:時系列予測モデル(Neural Prophet)、自然言語処理(BERT)、音楽自動作成(SOUNDRAW)に取り組みました。
年6回開催しました。
クラウドビジネス推進部会
部会長 藤田 浩之
NCWGメンバー相互の交流の機会を積極的に提供する、クラウドビジネスの知の共有により、各社のクラウドビジネスを活発化させる、クラウドの様々な利活用方法を取り上げ各社のクラウドケイパビリティの向上につなげる、というものです。
具体的な活動としては「クラウドビジネスサロン」を開催し、メンバーが気軽に参加してクラウドビジネスについて語り合います。
これまで取り上げたテーマはRPA、メタバース、ブロックチェーン、WEB3、OpenSearch、ChatGPTです。
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4.『クラウド運用を成功に導く「CloudCREW」サービスのご紹介』
GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社
クラウドソリューション営業部 CloudCREWセールスG
中野 良紀(なかの よしき) 氏
『CloudCREW』サービスについてご紹介します。
『CloudCREW』は、AWSとGoogle Cloudのクラウド運用を成功に導くための、さまざまな利活用支援サービスを提供しています。
『CloudCREW』は、クラウド運用のあらゆる課題を解決する、あなたの“ベストクルー”です。
1)AWS利活用支援サービス
請求代行:円建て、銀行振込、5%値引
マネージドクラウド for AWS:監視運用代行、相談窓口
マネージドパック:定額&フルマネージドサービス
マネージドセキュリティ:セキュリティ監視・運用支援
2)Google Cloud利活用支援サービス
請求代行:円建て、銀行振込、3%値引
マネージドクラウド for Google Cloud:監視運用代行、専任SEによるサポート
3)脆弱性診断
マルチクラウド対応のセキュリティ支援サービス(対応クラウド:AWS、Google Cloud)
クラウド診断、WEBアプリケーション診断、スマートフォンアプリケーション診断
活用事例
1)新規キャンペーンサイト公開に向けたAWS環境の構築
クライアント:WEB制作会社(エンドユーザ:イベント会社)
サービス:AWS環境の構築提案、インフラ設計・構築、監視運用、技術支援
2)コーポレートサイトのリニューアルに伴う新規構築と監視運用
クライアント:SIer(エンドユーザ:自動車メーカー)
サービス:AWS環境のインフラ設計・構築、監視運用、技術支援
パートナープログラムのご案内
AWS利活用支援サービス、Google Cloud利活用支援サービス、セキュリティ支援サービス
※請求代行以外のサービスを提供可能
パートナープログラム支援内容
営業支援、提案ツールの提供、サポート、パートナー価格での特別提供
ランク制度:レベル(年間販売額の実績による)に応じた割引率
ブロンズ15%、シルバー20%、ゴールド25%
■質疑応答
Q.脆弱性診断後の評価や具体的な対策についても支援いただけますか?
A.アプリケーション上の改修はお客様に対応いただきますが、環境についてのセキュリティ強化などの対策はご支援が可能です。
Q.AWSのマネージドクラウドとマネージドパックの違いは何ですか?
A.前者は構築のみ、監視運用のみなど、個別にお選びいただけます、パックは弊社にまるっとお任せいただく内容になっています。
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5.『AIとクラウドの進展とIOWN』
NCWGサムライクラウドサポーター
国際大学 グローバル・コミュニケーション・センター 客員研究員
NTTコミュニケーションズ株式会社 エバンジェリスト
林 雅之(はやし まさゆき) 氏
本日のテーマはIOWN(アイオン)です。あまり聞きなれないキーワードかもしれませんが、IOWNで世界と戦っていくことを目指しておりますので、その辺りをご紹介していきたいと思います。
簡単な自己紹介ですが、通常はNTTコミュニケーションズでエバンジェリストとして活動しており、12年間ほどクラウドに携わっていましたが、IOWNを推進する部署に異動になり、最近は2、3日に1回ぐらいIOWNの話をして欲しいという依頼が増え、IOWNの関心が高まってきたと実感しています。ブログを毎日書いていて来月で6000日となります。16年以上毎日続いております。また、最近はニュースピックスなどいろいろな情報発信をしています。
まず初めに、IWONとは何なのかということを動画で紹介させていただきます。
・動画のご紹介
IOWNとは?IOWNのビジョン、価値などをわかりやすくお伝えいたします。
https://www.youtube.com/watch?v=0OXzcwTB_hY&t=31s
IOWNは日本の国際競争力という観点から世界規模の中で力を合わせて取り組んでいくとうことで、IOWN Global Forum年次総会で岸田総理が発信されています。NTTグループだけではなく、世界と日本の企業が競争していくという取り組みになります。
一番の問題はAIやクラウドが進展すると電気や水を消費し、環境破壊が世界的な大きな社会課題となります。動画内でも紹介していますが、データセンターの年間消費電力も2600倍との予測もあります。AIやクラウドが進展する社会的、経済的に良い反面、データ量、通信量が増加し、既存の通信システムでは耐えきれないなど限界が来ており、新たな社会価値創造に耐えうるコンピューティングインフラが重要になり、光電融合デバイスやオールフォトニクス技術を使ったインフラを作っていこうという流れや取り組みがIOWNとなります。
ポイントはオールフォトニクス(APN)で、光回路と電気回路の融合で大容量低消費電力を実現していくというところがAPNです。もう一つ大きな進化が光電融合デバイスで、最終的には光のチップ化をしていくことになります。
IOWNはネットワークの進化のイメージが非常に強いと思うんですけども、究極の世界はこのスマホ一年間充電しなくても稼働できるっていうことです。なぜかというと、200分の1の電力効率が高まるということで、例えばドローンが十分な距離飛ばないところが、この電力効率200倍に上げていくことになれば、もしかしたら大阪から東京に飛ばすこともできるようになる。このように電力革命が起きる可能性もありますし、大容量のデータ配信やスポーツ配信、自動運転を実現していくことができます。
どうやって実現するかですが、IOWNで光ファイバー変える必要はなく、既存の光ファイバー網で十分ですが、現状は、このデータセンターで電気と光、光と電気と変換が発生し、そこでロスがでます。そこをずっと光の波長で繋げていくことによって、全部一本光で通すことで、大容量低遅延低消費電力を実現することができ、そしてデバイスの進化で、全部光化で処理をしていくことにより、電力効率を上げていくっていうのが全体のイメージになります。
・動画のご紹介
未来の音楽会、リモート漫才、ダンスレッスン
身近な事例はこのようなエンタメ系やスポーツとかで、エンタープライズ系だとデータセンタ間接続になります。今までは、東京、大阪の首都圏が中心になっていましたが、低遅延通信できるということで、将来的には、北海道や沖縄などデータセンターの分散化がどんどん進んでいき、バックアップも遠距離でする形になります。将来的には首都圏だけではなくて、東京などは土地の立地や電力確保がすごく難しくなってきますので、より広いエリアでデータセンター化が進みます。
今後の展開を少しご紹介していきます。分散型データセンターやスポーツ配信を紹介しましたが、例えば自動運転やスマートシティでの活用で様々な可能性があると思いますし、最終的に宇宙のモデルもありますし、スマートシティやエネルギー予測、メタバースとの連携など、複数のカテゴリーでIOWNは活用できると思います。ただ、まだ具体的なイメージができてないところがありますので、議論を進めながら取り組むことが重要と思います。
回線の話が多かったんですけども、一つ大きなポイントは光電融合デバイスで、これからどんどんAIが普及して行く中で、省電力の解決策として光電融合デバイスの事業化を目指してNTTグループとして製造機能を元々持ってなかったこういった最終的にチップの光化に向けて取り組んでいこうという計画しています。
チップの光化を進めていくとなると、例えば、スマホはこういったチップを光化していくと、一年間充電しなくても利用できたり、そんな世界が生まれると、モビリティ自動運転と連携したり、それがネットワークにつながることで、いろんなブレイクスルーが起きていく可能性あると考えています。
ターゲットになるのが大阪の関西万博で環境を整えていこうと計画しています。おそらく2030年ぐらいには、家庭まで広がり、ネットワークのインフラのあり方が変わっていく。そんな動きも出てくるかなと思います。
IOWNの技術を使って、最終的に宇宙をターゲットとしている。宇宙に関しては膨大なんですけど、少しご紹介をして行きたいと思います。本日は宇宙データセンター事業と宇宙RAN事業(HAPS)を簡単にご紹介します。
宇宙データセンターのサービスは、衛生のGEOを中継してIOWNの光回線、オールフォトニクスの技術を使いながら、光通信による高速大容量の通信を提供して行くというところで、2025年ターゲットとしています。あとは宇宙エッジコンピューティング、宇宙データセンターという言い方もしていますが、中継地点に大規模ストレージとかを置いて宇宙にデータを貯めていくようなものをターゲットとして2027年を目指しています。
ロードマップはIOWNと同じようなターゲットになっています。本格的に展開するは2027年以降になります。宇宙事業もクラウド技術やIOWNの技術を使いながら展開していく計画です。
■質疑応答
Q.超大容量、超低遅延という観点で、6GとIOWNの親和性は?
A.ビヨンド5Gは無線を含めた、世界の共通基盤です。IOWNは固定網のイメージ強いですが無線の考えもあり、ビヨンド5Gの構想の中にIOWNの取り組みも進んでいます。
Q.IOWN2.0以降は光電融合デバイスになると思うのですが、日本にはチップ製造メーカがないと思いますが、今後開発していくには、既存のIntelやチップメーカーと組むのか、別のメーカが製造していくのでしょうか?
A.まだどういった展開になるか見えない部分もありますが、各デバイスメーカも取り組み方を調整していますし、海外の企業も興味を示しているので、今後手を挙げる企業が増えて競争が進んでいくと予測でき、国際競争のトリガーとなりえます。
Q.光回路のイメージが分からないので、光電融合デバイスとは今までとの違いは何でしょうか?
A.詳細についてはすべて把握しているわけではありませんが、すべて光化にする技術は研究員も難しいと共有がありまして、チップ内の光化が難しく、NTT持ち株会社も特許を取得しており、学会でも発表しており、なかなか真似ができないような技術となります。
Q.NTT以外の通信事業者との取り組みはどうなるのか?
A.IOWNグローバルフォーラムはKDDIも加入されているし、海外のプロバイダもいるので、NTTが独占するつもりはなく、いろんな通信事業者もウェルカムです。
Q.IOWNのロードマップの先になるかもしれないが、IOWNは今までの技術の延長なのか、置き換わるものなのか?
A.光の基本的な通信技術は変わりませんが、ルータやデバイスは変わります。クラウドコンピューター企業基盤も今までのハードウェアの部分は結構変わってきますが、通信そのもののベース光ファイバーというのは変わらないです。
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6.『世界と我が国の宇宙ビジネス』
国立大学法人 和歌山大学 学長補佐/教授
秋山 演亮(あきやま ひろあき) 先生
▼イントロダクション
世界と我が国の宇宙ビジネスということでお話をさせていただきます。
少し前にはハヤブサの2号機がニュースでも取りざたされて有名になりましたので、忘れられているかもしれませんが、私は2003年に打ち上げられた1号機の方のハヤブサプロジェクトに関わっていたりしました。
その後は千葉工大にいたり、内閣府宇宙開発戦略推進事務局にいたりといろいろ
やっておりますが、現在は和歌山大の教授という立場で、宇宙開発に関する教育や政策提言などに携わっています。
本日は我が国の宇宙開発が今どうなっているのか、その中でのビジネスチャンスはどうなっていくのか、クラウドがどのようにかかわってくるかといったところをお話しできればと思います。
▼宇宙開発~過去・未来
宇宙開発の黎明期は東西冷戦の時代ですが、ことの起こりは少し前、第2次世界大戦前後までさかのぼります。
重要な人物としてはまず、ドイツのヴェルナー・フォン・ブラウンですが、彼は戦前から火星に行きたいと考えていました。
第2次大戦期にドイツはナチスに統治されるわけですが、そのもとで彼により1944年にV2ロケットが開発されます。このV2ロケットですが、実は世界初の大陸間弾道ミサイルになり、ポーランドのペーネミュンデ陸軍兵器実験場で何万発と量産され、大戦で使用されたことでロンドンが瓦礫の山になりました。
しかし、彼は特にナチズムに傾倒していたというわけではなく、根本的にはただロケットを飛ばしたかっただけですので、大戦末期にはドイツからの逃亡の末、アメリカ軍の捕虜となってそのまま亡命します。
アメリカ側も彼がロケット開発者であることは承知しており、彼を受け入れたことでここからアメリカの宇宙開発がスタートします。
一方、ロシアはペーネミュンデに大量に保管されていたV2ロケットを接収します。
残されたV2ロケットの技術を理解し、研究・活用できる人物は当時のロシア内では少なかったのですが、シベリアに流刑となっていたセルゲイ・コロリョフに白羽の矢が立ちます。その後の旧ソ連時代も含めて、西側諸国からは特に有名な人物ではなかったのですが、当初の宇宙開発はフォン・ブラウンとこのコロリョフという二人がそれぞれ中心となる陣営による開発競争が始まります。
そんな中、1957年にはソ連製の初の人工衛星スプートニクの打ち上げ成功、続いて1961年にはガガーリンが初の有人宇宙飛行を成功させ、米国は衝撃を受けます。
そこでジョン・F・ケネディ大統領が、1962年に”We choose to go to the moon.”というフレーズで有名な、いわゆるムーンスピーチと呼ばれる演説を行いました。
そして、フォン・ブラウンを中心にアポロ計画を推進、1969年に初の月面着陸を成し遂げます。
その後、地上では東西冷戦の時代として米ソの関係は皆さんの知るところだと思いますが、宇宙ではアポロとソ連の宇宙ステーションをドッキングする計画が進められたりと、意外と融和的な時代がありました。
こうした背景から、だんだんと宇宙開発に対して軍事関連の予算がつかなくなりました。
▼宇宙開発~大衆化の時代
そんな折に現れたのがカール・セーガンという大衆を扇動する人物です。
今でこそ科学番組など当たり前のように一般大衆が視聴していますが、当時は
科学者や研究者というのは表に出てくる存在ではありませんでした。
彼はそのような状況を問題と捉え、宇宙開発をドキュメンタリー番組COSMOSで大衆に向け宣伝、夢を与えることで扇動して予算を確保しようとする流れを作りました。
こうした流れの中で、1974年にマリーナ10号が水星・金星へ、1976年にはヴァイキングが火星探査へ飛び立つなど、他の星へも探査船が飛ばされるようになります。
土星や木星などの探査を経て、今では太陽系の外を飛び続けている有名なヴォイジャー計画もこのころに打ち上げられました。
▼宇宙開発~協力と協調の時代
冷戦終結前後の時代になると全世界的に協調しながら宇宙開発が進められるようになります。
レーガン大統領時代の1984年、米国の提案により国際宇宙ステーション構想が始まります。
これに1985年には欧州・カナダと共に日本も参加し、冷戦終結後の1993年にはロシアも計画に参加しました。大まかに言って現在まで続く流れはこのような時代にあたるわけですね。
▼宇宙開発~国・民間の役割分担の時代へ
90年代以降、アメリカでは地球周回軌道までは既に国家主導で打ち上げや開発を
行うのではなく、民間へ開放・委託しようという動きが出てきます。
スペースシャトルをはじめ、宇宙船・宇宙開発についていくつかの企業がこれにより実際に宇宙開発事業に着手しますが、昨今有名なスペースXもその流れの一つです。
しかし、現実としては想定より民間での開発スピードが伸び悩み、当時の想定だと2023年現在では既に民間宇宙ステーションが実用化されているはずでしたが、
未だ実用化されていません。
また、実は中国が国策により独自の宇宙ステーションを実現させたことで、周回軌道上の国家間パワーバランスの問題もあり、老朽化の進んだ国際宇宙ステーションはまだまだ現役を終えることはできずにいます。
こうして現状思い描いた通りに分担はできていない状況ですが、周回軌道上の開発を民間に任せて、国家レベルでは何を目指そうとしていたかといえば、月・火星を本格的に目指すプロジェクトが始まりました。
まずは再び月へ行こうということで、最初のステップとして無人探査機による月の周回安全性を検証するための ARTEMIS 1 プロジェクトが2022年に打ち上げ実行されました。
この ARTEMIS プロジェクトには、日本も参加しており、有人での月周回飛行を行う ARTEMIS 2有人月面着陸を含む ARTEMIS 3,4 と計画が進められていました。
ARTEMIS プロジェクトのフェーズ1では、参加する各国家の協力の元、月の周回軌道にステーションを建造する計画となっています。
これは地球圏外の宇宙へ進出するためのゲートウェイの構築であり、月周回軌道上のステーションを足がかりにしてさらに火星を目指すフェーズ2があります。
月軌道ステーション建造の当初の計画ではロシアのROSCOSMOSも建造メンバーに入っていましたが、ご存じの通り昨今の急激な国際情勢不安によって、もともと米主導のもと進められてきたこの計画は少々停滞している状況ではあります。
そんな中、昨今躍進しているのがUAE(アラブ首長国連邦)です。
UAEは2018年に独自観測衛星を建造し打ち上げ(打ち上げは種子島から)、2019年にはUAE初の宇宙飛行士が誕生、2020年に打ち上げた衛星が2021年に火星探査を行うなど、急成長を遂げています。
今後も、2117年には火星上に60万人都市を建設することを目指し、マイルストーンとして2040年に月面に千人が居住、1万人が滞在可能な集落の建設、2060年には月~地球軌道上に火星進出基地建設、2080年に火星軌道上に1万人前後の居住・滞在可能な基地建設、2100には火星上に10万人規模の集落建設という計画を立てています。
私は今そんなUAEに日本の宇宙開発関連の技術や製品を売り込みに行ったりしています。
▼新たな冷戦?宇宙戦争?
さて、ここまでは過去の歴史を踏まえた理想的・平和的な宇宙開発計画のお話でしたが、ここからは現実的なお話です。最近は月に関する宇宙開発の話題が盛んです。
これまでに登場した国の他にも、このところ中国やインドも盛んに月面探査着陸を行っています。
何故、みなこぞって月の探査を行っているのか、という話になるのですが、そのためにまずは月の環境についてお話しします。
月面では約15日周期で昼と夜が入れ替わりますが、月面の夜はおよそマイナス100度くらいまで気温が下がります。そうなるとマイナス40度を下回るくらいで大抵の機械は壊れてしまいますので、月面で夜を越えるというのは、実は結構大変なことなんです。
そんな中、これまでの観測で月の極点付近ではほとんど夜にならない地域も存在することがわかりました。
地球の白夜があるような地域と同様に、1年間の日照率が80%を越えるような場所があります。
ただし、そういった場所は5か所ほどで、1か所あたり当たりせいぜい100平米くらいの広さしかありません。
これが例えば月面に観測所や研究所のような施設を建造する際に問題になってきます。
昨年末頃に、昭和基地から20kmほどの場所に中国が日本に通告なく基地施設を作っていたことで問題となるニュースがありましたが、南極のようなどこにも領有されていない場所での観測や研究施設というのは国際慣例的に、先に建設したほうが優先されます。
また、後からやってきて建設しようとする国に対して、観測・研究に支障が出るという理由で近くに建設しないように求めることも慣例的には一般的とされます。
月面の様にどの国も領有していない場所では、これまでの国際慣例に則って対応が進められることになります。
従って、どこの国もいち早く自国の施設を建設できる極点付近の理想的な場所について、争奪戦が始まっているのです。
更に極点付近のみならず、月面には縦坑と地下空洞が存在することも最近になって確認されており、ここに基地を建設するという計画を中国が打ち出しています。
ただし、越夜の際の気温の問題はその場合も残りますので、これを解決するために月面上で私用するための原子炉開発も進めているようです。更にそうした施設を利用して、物資を輸送するためにマスドライバーを月面に建造することも考えられているようです。
これはいわゆる巨大なリニアレールで超電導により物体を加速して打ち出すものですが、月面は重力が6分の1で大気抵抗もゼロに等しい環境ですので簡単に一定の質量体を超高速で飛ばすことができます。
例えばこれが地球上に向けて発射された場合どうなるでしょうか。
概ね100mの物体をこのようなマスドライバーで落とすと、落下した地点の半径1km程度は消滅する威力があります。大量破壊兵器にも転用可能という事です。
こうした可能性も含めると、月は今安全保障上非常に重要な地域となりつつあるのです。
▼宇宙開発の未来シナリオ・ビジョン
現在の日本の宇宙開発分野は、文科省→内閣府へ移管されました。
文科省は研究がメインであり、資源開発など範囲外の対応ができないこともあるため、産業的発展も見越して市場規模の資産なども複数省庁連携でやる必要があるという背景です。
そんな中、我が国においても、ロケットの開発や打ち上げはいつまでも国家事業として実施するのではなく民間に移していくべきではないかという議論がありました。
しかし、これまで信じられてきたような地球周回軌道は世界的に民間に広く公開され、月・火星の開発は国際協力/協調のもとで進められるであろうという平和なシナリオは昨今の情勢変化から唯一信じられる未来ではなくなってきています。
地上での紛争や国家間のブロック化が広がり、地球周回軌道や月面の開発が政府主導で安全保障目的に利用されていくケースが増えるシナリオも想定する必要があるだろうという状況になってきています。
そんな中で全世界2百数十カ国のうち、1割程度しか持っていない独自のロケット開発・打ち上げの能力を切り捨ててしまう結果になると、外交上大変不利になることは想像に難くありません。
加えて技術的には現状維持と新規技術開発の両輪を回していく必要がありますので、やはり民間にすべてを任せてもよいというわけではないわけですね。
従って、この点を含めて包括的に画策するために内閣府が主導しているという状況です。
なお、必ずしも平和な状況の中で進んでいかないであろうというシナリオに、ウクライナ紛争の折、スターリンクのインフラが重要な戦略的意味を持ったことで世界中の人々が気づきました。
同様の地球低軌道の衛星通信網については日米も協力して取り組む声明を出しています。
▼宇宙市場は拡大するのか?
結論としてはどのシナリオに転んでも世界的な市場は拡大し続けていくでしょう。
2014年の段階で、世界の様々なマーケット全体で見ても既に10番目くらいに
大きな規模の市場になっています。今のところ、年4.5%の成長率が見込まれており、2040年には150兆円規模になることが予想されています。
これは現在で言うとガソリン車の市場と同程度の規模ということになります。
ただし、これに対して2008年ころから10年間にわたり日本の国内市場は伸びていません。
先日、内閣府の宇宙基本計画に関わる機会がありましたが、国内市場の規模拡大を促進するため、2つのアプローチを考えているようです。
1つは従来の各省庁予算では使途が限定されていたことで民間企業や大学への資金投入に障壁があったことから、JAXA基金の設立により予算をここにひとまとめにすることでより円滑な投資を行うことができるようにするというものです。
特に防衛費などの名目で予算が付く場合は発注先の企業や研究機関も慎重にならざるを得ないことがあり、実は海外ではこれは比較的ポピュラーな手法です。
もう1つは単純に日本の国費として宇宙関連予算の規模を増やすというものです。
日本企業は基本的に国内サプライチェーンの中での活動を主としており、この分野でも特に海外へ積極的に売り込みに行こうという動きは少ないのが実情です。
また、大手企業になるほど既存発注でラインが埋まっている状況もあり、今のところ海外マーケットを取りに行く必然性が薄いということもあります。
2022年に国内の宇宙ベンチャーの資金調達総額が約345億円でしたが、2023年に文科省と経産省が合同でこれらの分野に助成する交付総額が388億円とのニュースもあり、日本国内の市場にとっては国費の存在がかなりのインパクトを持っています。
つまりは宇宙開発の国費を増やすと、国内マーケットの規模が比例して増えるというような構造になっているのです。
▼災害時の通信の冗長系
マーケット全体の話がこのようにある一方で、災害時の通信インフラの冗長系として宇宙開発を進めることの重要性も増しています。
これは現在私も取り組んでいる課題の一つですが、3.11 の際に災害発生から
24時間位程度では既に自衛隊をはじめとした救出部隊が現地対応に入っていたにも関わらず、情報が途絶してしまっていたことで実際に救援が必要な現場にたどり着けませんでした。
生存率は災害発生から24時間以内であれば8割以上が助かるといわれていますが、この時実際にはほとんどのケースで48時間から72時間経過して救出に至っており、この場合5割~7割の方が既に亡くなっています。
こういった状況下での情報伝達を迅速化するために、国としては測位精度をより細かく補完するために日本を中心とした経度帯に特化した軌道をとる準天頂衛星を利用する計画を立ています。
これらには災害・危機管理通報サービス「再起通報」、災害等発生時の安否情報を伝達する「Q-anpi」という通信機能が備わっています。
例えば、「Q-anpi」を利用しどの避難所にどの程度の人数が避難してきているかという情報を収集することで、人口に対して避難者の数が少なければより深刻な状況であると想定できるため、そういった場所へ自衛隊などの派遣をスムーズに行えます。
被災地でこのような迅速な情報伝達を行う方法の提案を行っているところです。
その他、国だけに任せるのではなく民間でも自助・共助を目的としたLoraWANを使った「住民自主水位計網」の構築にも取り組んでいます。
これにより水害に対して「居住区」単位で公的な情報よりも身近に危険を感じられる災害情報・避難情報を緊急時に得られるようにと考えています。
LoraWANは省電力・長距離通信が可能で、IoTの専用通信として無料で通信が
可能であるため、従来の通信キャリアに依存したインフラとは異なり、通信インフラの市場を地産地消にすることが可能です。
更にこれらのノードは低軌道上の衛星との通信も可能ですので、それを利用して
モンゴルと共同でLoraWANと通信衛星による通信網の構築という取り組みも考えています。
▼我々の未来と通信、クラウドは?
地球低軌道は地上2000kmほどですので、この範囲での通信の遅延はほぼないと考えてよいです。
月は38万キロ離れており、1秒程度の遅延が発生します。この程度なら同一ネットワークの通信といえるかと思いますが、火星は最も近づいたタイミングでも6000万km程の距離がありますので、30分~60分ほどの通信遅延が発生します。
こうした通信環境において、クラウドサーバはどこに設置するべきなのか、
ネットワークはどのように構築すべきかは検討していく必要があります。
また、先にお話しした情勢不安による宇宙開発のシナリオ変化に伴って、情報の秘匿性についても現在非常に重要視されていますので、今後宇宙開発関連の国内サーバ設置やネットワークの暗号化に関して予算が付くということも考えられます。
このあたりも含めて、ニッポンクラウドワーキンググループにお集まりの皆さんには是非積極的に取り組んでいただければと思います。
以上です。
■質疑応答
Q:国策としての市場拡大に向けた動向のお話がありましたが、日本のマーケットを拡大するためには民間の事業者として他にどういった視点が必要と考えられますか。
A:宇宙といっても市場内訳のすべてが宇宙空間そのものではなく、試算されている市場規模のうち実際にロケットや衛星関連の様にハードに宇宙そのものにかかわる部分は半分程度です。
それ以外は、宇宙で得た情報等のリソースをどう利用するか、という実際は地上で展開される産業の規模がかなりの部分を占めています。
ここで必要になってくるのは、現場担当レベルでのやる気と、それを後押しする経営トップの決断スピードだと思います。
国内に閉じるのではなく、国内外のサプライチェーンをトータルで考える必要もあるでしょう。
そういう意味では、クラウド関連の事業者の皆さんは垣根が比較的低いかと思います。
発表資料はこちら
7.会長からの総括
会長 小堀 吉伸
皆さんお疲れ様です。
冒頭お話させていただいたように、実はニッポンクラウドワーキンググループは10月が最後の月なので、本日が今期最後のイベントということになります。
林さんどうもありがとうございました。秋山先生どうもありがとうございました。GMOさん、会場ご提供ありがとうございました。
おかげさまでニッポンクラウドワーキンググループ12年です。
会を10年続けるということは最初から言っておらず、1年毎に役割終わったら解散するということを設立のときにお話して、その時にGMOの青山社長から、「設立のときに解散について話し出すってあんまりないよね。それがちょっと面白いよね」と言っていただいて、そのときにお1人だけ「12年はやりましょうよ」と言っていただいた先見の明のある方がいらして、今12年周年を迎えています。
ですので、12月5日に12周年を東京で開催いたしますので、是非皆さんもいらしてください。
11月から新しい期に入るということは13期目もスタートしますので、是非いろいろ皆さんにこういうことをやりたいと言っていただいて、13年目もやっていきたいなと思っています。
ニッポンクラウドワーキンググループ、今回70回目の会合となりますが、12年で70回ですが、今年会合自体は3回しか開催できていないということは、いかに1年2年3年目のときハイペースで会合やってたのかなと。ありがたいことに、こういう任意団体でも、いろいろ本日秋山先生にもお話いただいて、林さんにもサムライクラウドサポーターになっていただいていますし、山口さんにもサムライクラウドサポーターになっていただいており、いろいろと皆さんにお力添えいただいて、この12年来たというのがあります。
何よりもすごいのは、以前NTTスマートコネクトさんにいらっしゃった平田さん、その息子さんも本日参加されていて、それって何か時間を感じるというか、時間を超えていくっていうことがこれからもあると思っています。
しかし、そう言いながらも1年単位でいろいろやっていきながら、皆さんと引き続きお力添えいただいて、12月5日は、また東京でも林さんにご登壇いただいて、その後パネルディスカッションを開催いたしますが、一つ、冒頭林さんのお話の中に、ブログもうすぐ6,000日ですとありました。6,000日毎日ブログ書き続けるって凄くて、さらに何よりも凄いことに、12年前にニッポンクラウドワーキンググループの取材に来ていただいて、設立の日の2日後にちゃんと記事を上げていただいていて、それがどんなものよりも綺麗に書いていただきました。
ですので、ぜひ林さんの12年前のブログを読んでいただいて、そして12月5日に来ていただいて、いろいろと言っていただければありがたいです。
12月5日は、実は最初の頃にお手伝いをいただいた多くの方々をお誘いしています。
12年の間に会社を離れられた、元NECさんだったり、元BIGLOBEさんだったり、元ソフトバンクさんだったり、でも、ソフトバンクを辞められた当時ご担当の方が冒頭ご挨拶させていただいたICTリンクさんをやられていて、実はこの前、会に入れてくださいというコメントがきたり、いろいろ時間を越えながら人の繋がりを大切にしながらニッポンクラウドワーキンググループを13年目もやっていきます。
秋山先生、またお力添えいただければと思います。林さんどうもありがとうございました。GMOさんありがとうございました。本日はどうもお疲れ様でした。
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懇親会についても大いに盛り上がり、メンバー・ご協賛の方々との積極的な交流を図ることができました。
<ニッポンクラウドワーキンググループ2023年度スローガン>
Beyond the Clouds2023!
「クラウドケイパビリティをみがき、クラウドビジネスの明日を創る!」
今回の会合が気づきの場となり、参画各社が「クラウドケイパビリティをみがきあげる」機会となるとともに、実現される未来を知って、知らないことによるクラウドビジネスの機会損失防止の切っ掛けとなれば幸いです。
今回の会合も盛況に開催できました。
会合、懇親会にご参加いただいた、大阪のみなさん、遠方よりお越しになった
みなさん、オンラインのみなさん、ありがとうございました
【NCWG実行委員 報告書作成者】
後藤 匡貴(アクロニス・ジャパン株式会社)
宮原 哲也(株式会社アルティネット)
内田 龍 (株式会社ブライエ)